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67. なぜこんなところに? モンゴルの巨大火成岩地帯の謎

今回は、大昔の地球の地下深くで何が起きていたのかを探る研究を紹介します。経済学研究科修士2年の堀内愛歩ほりうちなるほです。

なんだか最近地震が多いですね。実は日本のどこかで地震はほぼ毎日起きていて、年間1000回以上、多いときには6000回以上も起きています。ですので、地震が多いというより、私たちが感じるほどの大きさの地震が多く感じる、という表現が正しいのかもしれません。そんな地震の原因の一つが「プレート」です。理科で習う、地球の表面を覆っている岩盤のことですね。今回紹介するのは、この「プレート」に関する研究です。

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舞台はモンゴル火成岩地帯

日本の北西、モンゴル北部からシベリア南部にかけての地域には、数千kmにわたり広がる広大な火成岩地帯があります。火成岩とは、マグマが冷えて固まってできた岩石のことです。いったいなぜこんな巨大な火成岩地帯ができたのか、に着目する研究者の一人が名古屋大学博物館の束田和弘つかだかずひろ准教授です。

「実は、“世界最大の大陸ユーラシアが、いつ、どのようにして形成されたか?”は、まだ完全にはわかっていません。その謎を解き明かす鍵の一つが、モンゴルにあります(束田准教授)。」

束田准教授は、20年ほど行っているモンゴルの地質研究で、東ユーラシアの形成過程を少しずつ解き明かしている地質学者です。「自分の研究で地球の営みが解明されていくことに大変ワクワクしている」という束田准教授の研究グループは、今回、この地域の地質とプレートとの深い関連を見出しました。

”アダカイト”からみえてきたストーリー

まず岩石の化学組成分析を行い、シベリア大陸の縁辺部の火成岩は、海洋プレートが溶けてできた「アダカイト」という特殊な岩石だと明らかにしました。これはつまり、シベリア大陸の下に沈み込んだ海洋プレートが溶け、できたマグマが冷え固まった火成岩地域だと解釈できます。岩石の年代については、これまでの研究で約2億5000万年前と推定されており、今回の発見は、ユーラシア大陸がどのように形成されたかを考える重要なヒントとなるといいます。

ところで、「海洋プレートが溶ける」という現象には、高温・高圧といった特殊な条件が必要です。多くの場合、形成直後の高温の海洋プレートが沈み込んだときに起こるようです。しかし、今回の場合は形成から長い時間が経過した「冷たいプレート」が溶けたと推定されており、そのためにはとても大きな熱源が必要になります。

冷たいプレートは、どうやって溶けたのか?

現時点で束田准教授らが考えるシナリオは二つ。
一つは、L字型をした海溝で斜めに沈み込んだ海洋プレートが裂けたことによる、マントルの熱の流れ込みです。約2億5000万年前の大陸分布図を見ると、今回の調査対象である火成岩地帯も、その北東にあるL字型海溝に沿っているので、今回もマントルの熱が流れ込んで海洋プレートが溶けたのかもしれません。

約2億5000万年前の大陸分布図(束田准教授提供)

もう一つは、古生代末の大量絶滅の引き金となった大規模な火山活動「シベリアトラップ」を引き起こした、スーパープルームからの熱供給です。スーパープルームとは、地球の中心から表面に向かって起こる熱の流れを指します。実はシベリアトラップが起きたのも、今回のケースとちょうど同じ約2億5000万年前。年代の一致を考えると、海洋プレートを溶融させた熱源は、このスーパープルームの可能性もありそうです。

巨大な海洋プレートがどうやって溶けたのか、現段階では謎とのことですが、今後の研究でどのように解明されていくのか注目したいですね。

岩石の種類と年代の関係は?

日本の周りにも様々な年代に作られた岩石地帯がありますが、岩石の種類や年代に関わりはあるのでしょうか?束田准教授に伺いました。

── 岩石の種類の決まり方と、その岩石ができた年代に、関連や傾向はありますか?
例えば、「世界中である時期には砂岩がたくさん形成され,また違うある時期には花崗岩がたくさん形成され…」といったような「年代と岩石種」の間の相関関係は、“一般的には”ありません。しかし、ある特定の時期にたくさん形成された岩石は、少ないながらもあります。例えば「縞状鉄鉱層しまじょうてっこうそう」などがそれにあたります。

── 縞状鉄鉱層はいつ、どのように、たくさん形成されたのですか?
地球は約46億年前に誕生しましたが、形成早期は酸素が非常に少なく、鉄はイオンとして海水中にたくさん溶けていました。しかし、38〜19億年ほど前に藍藻類が出現し、その光合成によって地球の酸素が増えました。その結果、海水中に溶存していた鉄イオンと酸素イオンが結合し、酸化鉄が海底に沈殿してできたものが「縞状鉄鉱層」です。

── 海の底、というと、なかなかお目にかかれなそうです…。
実は、現在使われている鉄の90%以上は、この「縞状鉄鉱層」から採掘した鉄鉱石が元となっています。「地球上で生命が誕生=酸素量が上昇=縞状鉄鉱層が形成」といった地球史上の大イベントがなければ、現在の我々の生活は全く異なったものになっていたでしょうね。そう考えると、岩石とか資源とか地球史って大変面白いですよ。

── もしかして、アダカイトも現地の人々の生活と関わりがありますか?
アダカイトは、しばしば大規模な銅鉱床を伴うことが知られています。モンゴルのアダカイトも世界最大級の銅鉱床を伴っており、同国のGDPの70%をこの銅鉱山の経営で賄っています。つまり、2億5000万年前の大規模火成活動のおかげで、現在のモンゴル国民の生活があるということになります。


今回は、地球の歴史に触れる、とてもロマンある研究をご紹介しました。地球についてまだまだ知らないことはありますし、これを解き明かしていく研究は楽しいだろうなと思います。この研究について詳しくは、2022年6月1日発表のプレスリリースもご覧ください。

(文:堀内愛歩)

◯関連リンク
束田和弘准教授

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